伊藤詩織さん

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　伊藤詩織さん

　そういえば、私も、自分の知らない間に変な男にされてしまった時があった。そこは、ＪＲ上野駅の改札口を出たところにある大きなパン屋さんだ。たくさんの客がパンを求めて出入り口に流れていた。天井の高い店内に入り、白いプラスチック製のトレイに選んだ菓子パンを三つ載せた。そして、いくつもある会計レジのひとつに並んだ。私の前の客の会計が終わり、私の会計の番が来ると、今まで会計していた若い女性が、す～、っとレジから離れて何処かに歩いて行ってしまった。しばらくすると、痩せて姿勢の悪い小柄な中年の男がふらふらした様子で歩いてきた。顔に可笑しな含み笑いをしていた。そして、私の顔を見ずに会計をした。何が起きたのかその時は分からなかった。分かるはずもない。

　店を出て灰色のアスファルトの歩道を歩いて袋に入っている菓子パンを取り出している時、何故か？、急に閃いた。きっと、彼女は会計レジからパン屋の店内にある事務所のドアを叩いたんだ。そして、こんな事を間違いなくレジに来た男に言ったんだ。

　『お願いです！、助けてください！　レジに私を付け狙っているスケベな男が来ました。私って本当に可愛い女の子だから困っているんです。』

　都会で会話もなくすれ違う人達ばかりの毎日の生活をしていると、まあ、自己顕示欲が肥大しちゃう人もいるんだろうなあ～。そして、その自己顕示欲を満足させる為に、自分でも分かっていても芝居をしちゃうんだ。誰からも相手にされないとさ。そして、初めて見る客で二度と店には来ない客だと知っていてやったんだろう。

　きっと今もそのような女の子がいるだろう。そして、自分がパンを買いに来た客ではなく、スケベ男にされてしまったのも分からないでパクパクと嬉しそうな顔をしてパンを食べて食欲を満たして満足している男もいるだろう。何も知らずにさ。

　そういえば、男の俳優さんでもいたね。熊さんが、お笑い番組の中でスケベした回数を物知り顔で話していた。芸能界から映画界から消されてしまったのだろうか？　テレビカメラが自宅の玄関のドアまでその俳優さんが歩いて家に入る姿を容赦なく映像として放送していた。

　令和元年９月７日（土曜）曇り　２９℃　午後１８：１３　世田谷区より。
8 か月前