2011年5月7日土曜日

本当だったのかなぁ、黒子を取る、がまの油売り




 『さあさあ、寄ってきな、見ていきな。』


 年の暮れになると、田舎の裏通りに市が立ちました。子供のとき、必ず市を見に行きました。町の人達は人波に当たるとして、顔を出していました。100m位の距離に色々な出店が出ていました。正月の飾り物や、正月用品の物売りがたくさん店を出していました。夜の遅い時間までやっていて老若男女の人で賑わっていました。その中には、子供を相手にした紛い物売りなどもいました。顔に色の付いた水を塗って、両手で拭くと、元の顔になる手品のような、色水売りとか、10円玉をピカピカにする道具売りなどです。


 小学生5年生位のときでしょうか。がまの油売りが来ていました。包丁で腕を切って、ガマの油を付けると、傷口の赤い血が止まっり、傷口が塞がっているというやつです。ガマの油売りは、その他に体に付いている黒子を取りました。自分の体近くまで、子供達に囲まれている中を、ひとりの中学生の顔と腕に付いている黒子を、紙にガマの油を付けて張り付けました。しばらく張り付けていましたが、ガマの油売りのおじさんがその紙を顔と腕から剥がすと、紙に黒子が付いているのです。そして、たしかに中学生の顔と腕の黒子が無くなっていました。中学生の驚いた顔も、記憶にあります。その中学生は知っている中学生でした。顔には、以前から黒子があったのです。


 今記憶を辿っても、ガマの油売りが黒子を取ったのは、本当だったような気がします。


 平然と良い事をする人がいます。街中に落ちているゴミを、何の抵抗も見せずに拾う人がいます。若い人が飲んだ後の、空のペットボトルを拾って、ゴミ箱に捨てる人がいます。あるいは、彼が話すと、今まで争っていた人達が、納得して平和が訪れます。彼が云います。


 『簡単だろ。なぁ。何考えてるんだい。』


 黒子なんて、取れないものと思っていますが、それを簡単に取ってしまう人がいます。


 

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