2011年5月1日日曜日

大魔神になってしまった、大家さんと、東日本大震災




 『大家さん、大変お世話になりました。・・・それで、敷金返してもらえるんですか。返してもらえると、助かります。』



 木造モルタルアパートに1年半位住んでたでしょうか。金回りが良くなってきたので、引越す事にしました。引越トラックが、来るのを待っていました。その間に、大家さんに、引越しの挨拶をしに行きました。



 大家さんの家は、2つあるアパートの後ろに、在ります。大変、大きな立派な家です。緑色の芝生を敷き詰めた庭は広々としています。お孫さんの、5月の鯉幟は大きくて、高いポールの上で、何匹も風に靡いています。



 大家さんの家の門をくぐり、庭に居た大家さんに、挨拶をしました。しかし、何故か、大家さんは、下を向いて自分の足元を見ています。不思議に、私の顔を見ようとはしません。いつも笑顔で、穏やかな話し方をする大家さんです。私も、いつもの笑顔で、話していました。



 『敷金については、不動産屋と相談します。』



 大家さんが、ゆっくりと顔を上げて、云いました。しかし、大家さんの顔を見て、びっくりしました。大家さんの顔は、泥棒や凶悪な人殺しさえしかねないような、恐ろしい形相です。こんなに、極端に人の顔が変わるのを見たのは、初めてです。敷金は3万5千円×2の7万円です。どうも、私の話し方に問題があるようで、敷金を返したくないようです。それとも、私が引越してしまうのが面白くないのか、理由が分かりません。大家さんに聞かないと分からないのですが、そのような空気ではありません。いやぁ、全然、別人の顔です。人は、こんな凶暴な顔になるのでしょうか。本人の前に鏡を置いたら、腰を抜かすほどビックリすると思います。



 私は引越トラックが来たようなので、もう一度挨拶をして、引越しの用意が出来たら鍵を持ってきます、と云ってからトラックの方に歩き出しました。2トントラックにいっぱいの荷物です。全ての荷物をトラックに積み終え、大家さんに挨拶をしに行こうとしました。しかし、さきほどの形相を思い、鍵は郵便ポストの中に、お世話になった旨と、敷金は返さなくても結構ですと書いた紙を入れました。お孫さんに、おいしいものでも食べさせて下さい、と。トラックの運転手に発車するように云いました。



 実は、大家さんには、話せなかったのですが、引越し先は、同じ町の鉄筋コンクリートのマンションだったのです。風の便りでは、大家さん、1年もたたないうちに、風をこじらせて死んでしまったそうです。いまでも、あの凶悪な顔を目に浮かべることが出来ます。



 昔、関東大震災なるものがあったと、親父さんに中学生のとき、聞きました。親父さんが、小さい子供の時だったそうです。地震を体験したときの、小さい子供の顔で、驚く表情を見せました。子供の記憶を呼び戻して、私に話したのです。ですが、風評被害という話は出来ませんでした。でも、風評による虐殺が行われたのは、事実らしいのです。それは、このような風評だったそうです。



 『朝鮮人が井戸に、毒を投げたぞ!』



 たちまち、6000人の朝鮮人の人達を、虐殺してしまったそうです。多分、日本人は大家さんの顔をしていたでしょう。ドイツ人がユダヤ人を大虐殺したときも、大家さんの顔だったでしょう。みんな、そうなんでしょう。そして、気が付かないように暮らしているのです。アメリカ人がゴールデンタイムに、家族そろって夕食後にテレビ画面で、イラク空爆を見るようにです。



 今東日本大震災が起こって、時間が経過しています。震災者は、続く苦難や不安と戦っています。日本国政府は、暗闇に明かりを灯す事が出来ないでいます。北朝鮮拉致問題のように、当事者だけの問題になってしまうのでしょうか。しかし、そのときこそ、鬼が怖がる、大魔神の顔になるべきです。僅かな金額の敷金を返金するのを拒む為に、鬼も怖がるような顔になる大家さんを見習ってです。あなたも、そう思いませんか。

 

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