2011年5月4日水曜日

ユダヤ人と焼肉えびす




 『そうよね。絶対うちよぉ。』
 『そうだよ。だって、急に痛くなったんでしょ。』



 控え室で、ウエイトレスの女性達がホールで騒ぎとなった事件を話し合っていました。ここは、レストラン従業員の休息室です。3畳半位の部屋に畳が敷いてあります。レストラン従業員が、休息を取る場所になっています。煙草を吸ったり、雑談する場所です。そんな部屋から、彼女達の憤った声が漏れてきます。



 レストランのホールとカウンターの間にある通路で、1人の女性客が、レストランの女性店長に苦情を捲くし立てています。女性客は上等そうな厚手の生地の洋服を着ています。顔の形や身に付けている雰囲気から、ちょっと裕福な家の人のようです。その、お客さんの言葉に耳を傾けて、しきりに頭を前後に振っりながら身振り手振りを交えて応対する小太りの女性店長です。



 『でもですね。急にお腹が痛くなったんですよ。食べて、すぐに。』
 『うちとしては、衛生管理は万全に行っていまして、そのような事の無いように、注意しておりますので何かの間違いではないでしょうか?』
 『ほんとに、食べた後、急にですよ。』



 そんな会話がレストランの中で行われていました。女性店長と一緒にお客の話を聞いていた、ホール責任者の女性マネージャーが、厨房の横にある皿洗い場所まで歩いて来て云いました。



 『今、お客様のお子さんが、お子様ランチを食べて、急にお腹が痛くなったらしいんだけど・・・。』
 『関係ないよ。内じゃないね。』



 厨房にいたチーフコックが、人事のような強い口調でいいました。そして、忙しそうに体を動かしています。他のコック達もあっちにいったりこっちにいったり狭い厨房を歩き回っていました。



 私はレストランの洗い場で白い皿や鉄板、水飲みグラスを洗剤の泡の中に両手をいれて洗っていました。そして、コックの1人が、お子様ランチに使うゼリーカップを熱湯で消毒した現場をチラと思い出していました。金網で出来た、熱湯につける消毒用のブランチに、小さなクリーム色のプラスチックのゼリーカップ容器がたくさん入れられました。それを、熱湯の中に入れて、熱処理するのです。カップがたくさんあって、熱湯につからない上のカップがありました。忙しいのでコックも仕事に追われてかまっている暇がないのです。ゼリーカップは、お子様ランチ用にろくに洗いもせずに何度も使用するらしいのです。



 そんなレストランで働いていた、昔の日に、ある本が日本で話題になりました。テレビ、雑誌に取り上げられて、大変売れたようなのです。ハードカバーで、普通のページ枚数の本です。私も、購入して持っています。『ユダヤ人と日本人』と題名を付けられた本です。そして、ユダヤ人と日本人の考えや、環境の違いについて書き記されていました。そして、代表的な文言に次のようなものがあります。



 『日本人は水と安全はタダだと、思っている。』



 確かに世界を舞台にして生きているユダヤ人にとって水と安全は、お金を払って手に入れるものなのでしょう。日本は雨が多く、それに島国なので外敵が、少ないというより、島国のなかで生活しているからいませんよね。しかし、お子様ランチを食べて、腹痛に襲われた子供のように、危険は何処にでもあります。笑顔でテーブルの上にお子様ランチを置く、可愛いウエイトレスの姿からは、厨房でする不完全な熱湯消毒を想像する事は出来ません。



 何やら、焼肉チェーン店で食中毒患者が多発していました。今日のニュースが小さな子供2人が犠牲者となって死んでいる事実を知らせました。280円ユッケを食べてです。お子さんの両親の悲しみは、察するに余りあります。楽しいはずの家族の食事が原因で死んでしまったのです。安全というよりも、まさかそんな事があるはずが無いの気持ちだったと思います。



 ちなみに、昨日会社の同僚にレストランチェーン店でモーニングを御馳走になりました。卵とハムを挟んだ、三角に切ったサンドイッチとポテトフライにコーヒーでした。食べ終わってしばらく会話をした後に、トイレにいきました。お腹を壊したのです。どれぐらい話をづづけたでしょう。同僚が困った表情をして、トイレと言って、席を立ちました。彼も、お腹を壊したようなのです。・・でも・・、食べる前から、何となくお腹を壊すと分かっていました・・・。



 みんな、かまっていられないのです。人のお腹の安全なんか、忙しくて、そして、忙しくしないと、誰かに突っつかれてしまうのだと思います。ユダヤ人の皆さん、それが、日本人なんです。

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