2011年5月4日水曜日

小さな男の子と下駄屋のお兄さんの戦い




 小さな男の子が体を丸めて、下駄屋の店先に並んでいるサンダルを見ています。店の陳列棚の後ろには、下駄屋のお兄さんが椅子に腰を掛けて下駄の鼻緒を付けてる顔が見え隠れしています。店の大きさは三畳位の小さなお店です。小さな男の子は、サンダルに付いている、小さな金属のピストルを指で触っています。どうも、サンダルに付いている玩具のピストルに興味があるようです。ピストルは右と左のサンダルにひとつずつ付いています。



 下駄屋のお兄さんは、ハンサムな顔をしています。静かな雰囲気で何やら、かすかに微笑んでいます。小さな男の子が店先に体を丸めて、いつまでもサンダルを眺めているのが可笑しいらしいのです。静かに見る事なく、見守っているようです。



 小さな男の子は、時々、店の中にいるお兄さんの顔を見ています。そして、ピストルの付いてないサンダルを見て何か不思議に思っていました。サンダルにはピストルを付ける小さな袋があるだけで、袋の中は空っぽなのです。小さな男の子が、また、お兄さんの顔を見ました。彼のお母さんは、彼や彼の兄弟が履く、小さな靴やサンダルをこの下駄屋さんで購入しているはずなのです。



 小さな男の子が、決心したように立ち上がり、下駄屋さんの店を出ました。小さな男の子は、嬉しそうな顔で家への道を歩いていました。夏の日の空の下を得意になって、手に持っているピストルを見ていました。彼は、下駄屋さんのお兄さんに内緒で、サンダルのピストルを取ってしまったのです。小さな男の子には、まだ良心からの咎めはありませんでした。まだ、小学校にもいけない、幼稚園生だったはずです。



 小さな男の子とは、私の事です。私は泥棒をしていまったのです。あまりの玩具のピストルの魅力に負けて、世の中の敵になるような事をしてしまったのです。やさしく見守ってくれた下駄屋のお兄さんを裏切ってしまったのです。下駄屋のお兄さんは、その行為を知っていたかどうかは、わかりません。でも、こんな大人になっても、その事実が記憶に残っています。

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