2011年5月6日金曜日

転職者と渋谷のうなぎ屋さん




 『そうなんだよね。いるんだよ。』


 ここは、渋谷の雑居ビルの一階に入っているうなぎ屋さんの店の中です。誰もいない店内で店主と雑談をしてました。彼は、会社員を辞めてここでうなぎ屋を始めた人です。聞くところによると、経験も知識もなくうなぎ屋を始めたようなのです。何故、うなぎ屋を選んだのかは聞き忘れました。でも、なかなか順調で儲かっているらしいのです。渋谷にマンションを購入しています。マンションに案内され、部屋を訪れました。立派な洒落たマンションです。昭和50年代半ば頃の話です。その彼が、不思議な話をしました。どうも、常連客の話らしいのです。


 どこに勤めても会社が潰れるらしいのです。勤める先々で会社が潰れてしまうのです。その当時は、会社が潰れるような景気ではなく、石油ショックから経済は立ち直り始めていて、順調だったと思いました。相当競争力の激しい業界でも、潰れるような会社の話は聞いていません。話半分で笑いながら聞いていましたが、ある国の大使館に勤めたそうです。そして、さすがに国の大使館は潰れなかったそうです。


 灰色のアスファルトの歩道を歩いて帰りながら、思っていました。何も知らないで始めたうなぎ屋さんで、トントン拍子で、お金が入りマンションを購入してしまう人もいれば、勤める先々で会社が潰れてしまう人もいるんだなあ、と。


 私も何回か、転職しました。転職する度に給料が上がり生活も向上したように思います。しかし、どうなのかなあとも思います。転職をすると、すべてを一から始めることになります。一番大切なのは、今まで良くも悪くもあった、人間関係がすべて無くなってしまうことです。人にとって、寂しいことは今まで自分の一部のような人が、居なくなる事でははないでしょうか。快適に生活する為の生活用品や、快適に仕事をする為の道具がなくなると困るような事と一緒かと思うのです。家族や、仲間とか、愛着のある道具は自分を認識する指標のような気がします。体の一部がなくなると痛み、不便になるのと、一緒かとも思います。


 派遣社員、派遣会社、派遣切り等の言葉を良く聞きます。秋葉原の無差別殺傷事件なども、派遣社員に対する感情が起したような感じを受けています。無縁社会と云われています。どうなんでしょう。親しい信頼されている、理解され、理解している人達の中で生活する精神的な豊かさを忘れてしまっているような気がします。ブータンの人に尋ねた週間雑誌が、その応えを記事にしていました。


 『何か欲しいかって。何もいらない。一緒に暮らせる家族が居るから、それが一番幸せだよ。』


 そんな事を書いてあったような気がします。国民総生産の高いとはけして云えない国の、豊かな生活だと思います。おじいちゃん、おばあちゃん、そして孫に囲まれた生活の写真が掲載されていました。

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