2009年3月22日日曜日

やめろよぉ。



 『やめろよぉ。やめろよぉ。』



 私は小さな声で彼にいいます。私の腕を振り払い、無視して続ける彼です。



 そこは目黒の碑文谷にある池のある公園です。たくさんの釣り人が鮒や鯉を釣りに休日になると押しかけてきます。その日もたくさんの釣り人がやってきて竿に釣り糸とえさを付けて池に投げ込みます。ピンクや黄色、赤で塗った浮きを静かに眺めています。小さな双眼鏡で見ている人も、中にはいます。そんな人達に混じって暇な若い私達二人も、そこに居て釣りを眺めていました。しかし、彼の悪い癖が出てきてしまったのです。池には釣った魚を持ち帰らないで下さいとの立て札が書いてあるようなのです。一人の釣り人が釣った鯉を新聞紙に包みました。鯉はそれでも、長時間死なないのだそうです。持ち帰った鯉をどうするのかは知らないです。それを友人が目敏く見つけました。 良く晴れた春の日の午後の事です。



『いいのかね。いいのかね。』



 聞こえるか聞こえないかのかすかな声で釣り人の側で言い始めました。小出しに小出しにです。間隔を置いてです。本当に陰険な男です。私の友人のこの男はです。



 『いいんだよお。あまり鯉がたくさんいるようになると駄目なんだよ。』



 最初は無視していた、男性もチクリチクリと余りにもしつこいのに堪りかねて友人に顔を向けて言いました。



 『いいの? 持ってちゃって。池から持って行っちゃ駄目なんじゃないの。』
 


 もうすでに、返答は考えているのです。いやな男です。



 『いいだよ!』
 『いいんだ!』



 周りの釣り人も様子を知っていて鯉を持って帰ろうとする釣り人に加勢します。



 友人の負けです。本当にこんな人いますよね。自分の幸福より人の不幸を願う奴って。人の困った事を見るのが大好きな人って。人は多かれ少なかれそうなのかも知れませんね。そんな事で、ひょっとしたら、この男は自分に正直なのかも。



 でもね、快適な生活を送れるように、他人の不幸せを願うより、自分自身の幸せの為に自分に親切にした方が良いと思うんですけど。





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