2009年3月24日火曜日

小さな子を背中に背負って、行っちゃてる目をした日本の奥さん





 『出ねえぇ!。』
 『ガッシャーン!』



 ガラスが割れ、崩れ落ちる大きな音がしました。私と、私の左隣に座っている太った奥さんは、ガラスの割れた方をびっくりして見ました。そこには、色の浅黒い痩せた奥さんが赤ん坊を背中に背負って座っています。私と隣の奥さんが目を剥いて、何事かとその奥さんを見ました。



 そこは、南部線と田園都市線が交差する川崎の溝の口にあるパチンコ屋さんの店内です。どれぐらい昔の話でしょう。パチンコがデジタル機になり、パチンコ店が賭博場になったと新聞、雑誌に書かれた時期です。国会でも旦那さんがパチンコばっかりして働かないので何とかしてくれと、奥さんの言い分を取り上げた時期の事です。



 良くパチンコ屋さんに行きました。ラッキー7(7が3つそろう)と打ち止め無しで無制限に一日中パチンコが出来る。そんなやり方がどのパチンコ屋さんでも取り入れられました。そして、パチンコ店の閉店時間間際にラッキー7が出ると翌日10時までに来店すると、昨日の打ち止め無制限を継続して出来る時期がありました。私と、私の隣に座った奥さんは、その時期に朝のパチンコ屋さんの開店時間に来たのです。季節は寒い冬の午前中の事です。



 浅黒い顔をして、赤ん坊を背中に背負った奥さんの左手からは、赤い血が流れています。パチンコ台の二重のガラスの一枚が割れています。年配のパチンコ屋さんの男の店員が割れたガラスを黙って塵取りと箒を持って来てかたずけました。そして、若い男の店員さんが白い包帯を自然に落ち着いた感じで、その奥さんの左手に巻き始めたのです。店員さんは無表情で冷静、沈着の言葉の通りです。驚くほど落ち着いた対応です。



 自分を忘れてガラスに左手を叩きつけて割ってしまう奥さんと、それを平然と受け止め、冷静に白い包帯を奥さんの左手に巻いている若い男性の店員にショックを受けました。



 そして、浅黒い顔をして、赤ん坊を背負った奥さんの目を見ました。そしたらさぁ、行っちゃってんのさ。目が。一触即発の凄みをおびていました。文句あんのかぁ、ってな感じで。



 ギャンブルで熱くなる。なんて、正直な人なんだろて。でも、ちょっと寂しくなりました。何もかも忘れ、敢然と自分の目標を遂行すべく自分を賭ける人もいます。この奥さん、賭けに負けたのです。そして怒りをパチンコ台にぶつけた。それだけです。

0 件のコメント: