眠れないんですよ 眠れない人達、不眠症の人達に送る経験

　『いやあ~。最近、飯がうまくてなあ～。』　


　白衣を着た立派な体格の大きな男のお医者さんがドッシリと椅子に座り、私の顔を見ながら言いました。人の良さそうな大きな顔をしています。黒縁眼鏡をかけ、まるまると太って実に堂々としています。


　『眠れないんですよ。』


　その御医者さんに向かってぽつりと言う、私。


　『あっ！　あっ！　あんた眠れないのか？』


　お医者さんが、びっくりした顔をして私を見ます。さっきまでの陽気さが、どっかに行ってしまいました。引いています。


　以前、不眠症になりました。色々なものが重なったのが原因だと思います。過度の仕事量からの開放、過度の運動量の停止、奥歯の抜歯、環境の変化、年齢等など、災難が降りかかってきました。私の中のどこかが、壊れてしまったのです。


　お医者さんに診てもらいました。大学病院にもいきました。精神科でも見てもらいました。どこも悪くないと、どのお医者さんも言いました。どえらい装置を使用しても、異常がないといいます。


　４～５年ぐらい眠れませんでした。 大変つらい時期でした。良く晴れ渡った青い空の下を歩く心がゆがんでいました。何故眠れないのかと。眠いのに眠れない。横になっても、意識はありました。 夜、眠れずに暗い部屋で鏡を覗き込むと、かっと見開いた目が爛々としています。


　睡眠薬を飲みました。眠れましたね。でも、さっき衣類をしまったロッカーがどこだったか忘れているのです。異常ですね。スポーツクラブで着替えをして、運動後にロッカールームに戻ると、どのロッカーだか分からないのです。怖くなって、睡眠薬を飲むのをやめました。眠れません。


　悩みがいっぱいです。仕事の事、行く末の事。何となくあきらめムードが漂います。どうしようもないです。しかし、ぶらぶら長い時間何も考えずに散歩をしだしてから、眠れるようになったと、 記憶しています。


　歩きましょう。何時間でも、ぶらぶらと肩の力を抜いて。時間の 許す限り。健康と睡眠がそこにはあります。