2011年6月9日木曜日

小さな女の子が話しかけてくるとき


 『おじさん。おじさん。』



 いつもの灰色のアルファルトの散歩コースを歩いていました。前方に小さな女の子と、そのお父さんとお母さん達でしょう、近所の人と世間話をしているようです。何となく、歩きながら彼等に近づいて行きました。小さな女の子の1人が私に話しかけてきました。赤い柄模様の洋服を着ているせいか、外国人の子供のように見えます。髪の色も気のせいか赤ぽい感じがします。初めて見る子供です。笑顔で私に声を掛けて来たので、なんだろうと、目を瞬いていました。もう1人の女の子は、あきらかに日本人の子です。じっと私を黙って見ています。



 『おじさん、おじさん。抱きたい。』



 女の子が自分の小さい弟を抱いて、私に差し出します。女の子が、何を考えているのか分からないのですが、小さな男の子を両手で受け取り自分の顔の高さまで、持ち上げました。男の子は、日本人の顔です。すぐに、見知らぬ私の顔を見て、怖がるので女の子に、あわてるように返しました。両親も自分の子が、何をしているのか、こちらを見ています。そんな女の子を後にして、いつもの散歩から家路に向かって歩き出しました。背後では、相変わらす私を呼ぶ女の子の声がします。



 『おじさん。おじさん。』



 昔、兄が見知らぬ男の子に、まとわりつかれたのを思い出しました。兄は中学生だったと思います。私は小学生で、兄が魚釣りに必要なゴカイを砂浜で、スコップを使って掘り出していたのです。ゴカイを掘り出すのにはちょっとした知識と技術がいります。少しづつ、スコップで波が押し寄せる砂浜に掘った、穴の壁を削っていくのです。すると、ゴカイが生息する細い穴の筋が、削れる砂の壁に現れるのです。赤いゴカイが穴にすばやく身を隠す姿もチラと見えることもあります。



 そんな、ゴカイを捕まえている兄に、私より低学年の男の子が近づいて右手に、一匹の長く萎びて、動かない赤いゴカイを持ってさしだすのです。夏の強烈な陽射しの下の、砂浜でゴカイを捕まえる為の穴を掘っている兄を見ました。青空の下、強烈な夏の太陽の光の中で、兄の顔や体から、キラキラと輝いて出ている不思議な小さな煌めきがフラッシュのように瞬いています。それを小さな男の子は見ているのです。



 人にはそんなときがあります。見知らぬ人が、親しい人であるかのように手を上げて、声をかけてくるときがあります。海外の人でも同じです。同じ種類の人間だと思うのでしょう。多分、同じ状態の人間なのです。最善の努力をしている、あるいは後の状態なのかもしれません。スポーツ選手や、映画スターを身近で見ると、オーラがあるという人がいます。それと似たようなものだと思います。

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