2011年6月16日木曜日

御茶ノ水の新米歯医者


 『おかしいなぁ。こんなに、血管が浮き出ているのに?』



 ここは、御茶ノ水にある歯医者さんです。広々とした敷地内に、大きな物々しい、格式のある建物の中にあります。私の白い半袖の下着から出ている、左腕を台の上に乗せて、血液を採取しているのです。何やら、感染症を考慮して血液を調査するようなのです。ですが、うまく若い男の歯医者さんが、私の左腕から注射器に血液を採取する事ができません。鈍い茶色のゴム管を私の左腕に強く巻きつけ、血管を浮かせています。



 何となく、心の中に心配の雲が、少しずつ湧き上がってきます。そんな私の心中など無関心な様子で、私の左腕に注射針を何度も、何度も、刺し直す若い男の歯医者さんです。注射針が私の左腕に6度目ぐらい、刺し直したときです。暢気な私も、無理だと感じました。この若い男の歯医者さんには、採血する事は出来ないことが、分かります。あまり、採血をした経験が無いようなのです。ひょっとしたら、初めての採血経験かも、しれません。私は、首をかしげて、採血する注射針を再度、私の腕に刺し直そうとする若い男の歯医者さんに、静かに云いました。



 『先生、また今度にしませんか?』



 帰りの身支度を整えている私を眺めている、看護婦さんと若い男の歯医者さんのひそひそ声が聞こえてきます。



 『心配だなぁ。このまま、治療を止めちゃんじゃないかな・・。』
 『大丈夫よ。ほら、顔が笑ってるもの・・・。』



 家に帰り、次の日の午後にお茶の水の歯医者さんに電話しました。



 『治療を止めたいと考えています。昨日の様子から、ちょっと考えて治療するのを遠慮しようと・・・。』
 『誠意を持って治療しているんです。誠心誠意、治療を・・・・。』



 以前、会社の同僚が近所の歯医者さんに行ったら、これは、うちでは治療できないのでと、大きな大学病院を紹介されたのだそうです。そんな話を聞いて、私も歯医者さんを選ぶべきだと思い、御茶ノ水にある大きな病院なら間違いないだろうと、電話で問い合わせをしてから、行ったのです。最初は、さすがに大きいだけあるなぁ、と、感心していました。初診専門の男の人に口の中を調べてもらい、そして、レントゲンや、その他、幾つかの検査を受けました。その後、若い男の歯医者さんに面会したのです。多分、この若い男の歯医者さん、若い女性達が嬉しがるような顔とスタイルをしています。



 多分、初診で私の口の中を検査した、年配の男の人は、私なら、新米の歯医者の良い経験になると判断したのだろうと思います。そして、ぶっつけ本番で、何の考えも、経験も、練習することもせず、私の口の中の歯を治療しようとしたのです。ちなみにインプラントを入れてもらう、治療でした。普通はしないと、思います。チャッチボールも出来ない人に、プロ野球の夜のナイターゲームに出場させるでしょうか? テニスのサーブも出来ない人に、イギリスのウインブルドンに出場させますか? 大袈裟ではなく、そんな、感じでした。



 大学を出たから、出来るかというと、そんな事は無いのです。大きいところだから、大丈夫かというと、そんなことは決して無いとの実例です。しかし、しっかりしなければならないのは、自分自身なのです。実験台になってしまうのは、自分の考えが無いのが、目に見える表に現れているのだと思います。そして、隙のある人を世の中は、良い機会だと、それを決して見逃さないのです。



 そういえば、この若い男の歯医者さん、他の歯医者さんの使い走りをさせられていました。他の歯医者さんから、私へ暗に警告していた・・・。とても、患者さんを診る技術も、経験も、見識もないとの・・・大変な事になるとの・・・。



 『・・・行ってきて。』
 『今、治療してるんですけど。』
 『いいから、行ってきてよ。』

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