2009年8月29日土曜日

心頭滅却な人




 『ばっかやろう! 何度だと思ってんだぁ!』

 そこは、東京は馬喰町の集合ビルの5階に、オフィスを持つ会社です。30名ぐらいのこじんまりした人数の会社です。ですが、常時会社に居る人達は8名ぐらいです。あとの社員は取引先であるメーカに出向しています。そんな会社のある日の午後に、会社の社長が久々にオフィスに顔を出しました。そして、オフィスの部屋の温度に驚いて、思わず叫んだのです。しかし、誰も社長の言葉には動じません。何も聞こえないようにパソコンの画面を眺めています。社長もそんな社員を気にすることなく、空調の温度パネルを操作しています。

 実は私は、その会社に営業をして仕事をもらいました。そして、この会社に出向して働いていました。確かに暑いです。夏ですからあたりまえなのですが、オフィスの温度は異常に高いのです。顔が汗ばんで首筋に流れていきます。ですが、私が座っているデスクの左前に向かい合って座っている女性は冷え性なのか、軽い感じのひざ掛けを膝にかけています。

 そうなんですね。思い込んじゃっているんですね。夏は空調が利きすぎて冷えてしまうという考えにですね。そして、一日中ブラジルのような熱帯の国にいるような温度の中で平気な顔をして椅子に座って働いているのです。けして、気が付くことはないでしょう。小さな子供が来て、正直にこの女性に向かって部屋の温度の異常さを訴えるまでは。

 私には言えませんでした。仕事先のオフィスの温度ぐらいでは、出向先の会社の社員が黙って働いているのですから。

 そんな事で、思っちゃっているんですね。どんな異常な事でも、思っちゃっているから平気なんですね。そして、会社だから仕事だから異常でも我慢しているのが当たり前だって、思っちゃってるんですね。

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