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なにげない日々の暮らしの中で、日本の人々が出逢う細々とした小さな出来事を記述しています。
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2009年8月12日水曜日
烏山のカット屋さん
『夜はクーラなの?』
何気ない感じで彼女に尋ねました。2009年の夏まだ、8月が始まったばかりです。私は千歳烏山のカット屋さんで髪をカットしてもらっていました。大きな鏡の前の椅子に座っていました。彼女はハサミを動かし、上体を斜めにしたり左右に動かしながら、言いました。
『扇風機だけですね。』 彼女が言います。
『へえ、そうなんだ。リズム風っていうやつ。』 私が言います。
『いいえ。普通の扇風機。高い所に住んでるんです。それに今年の夏はあまり暑くないから。』
彼女は白っぽいワンピースに、なんだろ、赤いガラス玉のネックレスを二重にして首に巻いています。かなりスマートな体系をして、背も高い方です。そんな彼女が、私の後ろで、私の頭髪をカットする為に忙しくハサミと手足を動かしています。千歳烏山は私の、ちょっと気に入りの町です。街の人達がリラックスしている気がするのです。川崎の溝の口の街に気楽な空気を吹き込んだような街です。誰もが、忙しそうであっちにこっちに歩いています。そんな街の中の雑居ビルの2階に、このカット屋さんは開店しています。いつも来ると違う女性が営業しています。そして、私は軽い口調でお話をして、カットしてもらうのです。
『へえ。それはいいね。でも、会話ってむずかしいね。効果的に相手に真意を伝えるのが。』
そんな感じで今日、仕事先で客先との会話で困った状況を、彼女が私の髪をカットしてくれている間、話していた。そして、彼女も自分の考えを気さくに話してくれた。
『どうですか。』
彼女が私の後ろに、折りたたみの鏡を開いて私の後頭部を見せた。
『こんな、もんだろ。』
そう、言いながら、頭髪の薄くなったのと、間抜けな私の鏡に映った後頭部を眺めた。
『お疲れ様でした。』
彼女が私にかけた白い前掛けをはずしながら言った。
『なかなか上手じゃない。』
私は鏡に映った自分の姿を見ながら、彼女に御世辞を言った。そして、出口のドアに向かって歩くと、一人の若い男が私と目を合わせた。いつも、そうなんだけど誰かと話をしていると、見つめる人がいますね。それがなんなのかわからないでいます。そして、その目はけして好意的な感じの目ではないのですが。多分こんなに気楽にこんな場所で話しをする人が珍しいのかもしれません。
ドアに手を開けながら私は言いました。
『どうも。』
『ありがとうございました。』
彼女の声が背後から聞こえました。
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