2011年4月16日土曜日

パリダカールと東海沖大地震




 それは、いつの事だったでしょう。


 日本経済が絶好調で、世界中のお金が日本に集まってきたバブル経済真っ最中のことでした。あるテレビ局がある番組を放送しました。フランスの首都であるパリをスタートして、アフリカはセネガルのダカールを目指して、車、オートバイが競争するラリーでした。たくさんの国から参加したオードバイや車に乗ったドライバーが、泥、砂、埃まみれになって街や砂漠を砂塵を舞い上げて、何日何日も走りに走りぬくといった内容でした。


 夕暮れのなか、疲れ渇き、お腹ペコペコのドライバーを、その日に辿り着くであろう分岐点に設営した基地に、笑顔のスタッフとフランス人のシェフが待ている、といったものでした。新鮮な緑色のレタスをベースに刻んだ赤いトマトや、色々な野菜のサラダにドレッシング、冷えた缶ビール、透明なガラスのワイングラスには赤ワインがそそがれ、焼きたてのステーキやチキンとパンや焼き飯といった御馳走が、ドライバーが手に持っている白い皿に盛られていくという映像でした。泥だらけの顔や頭髪、体の汚れをはらい、ゆっくりと体を伸ばして椅子に座り、テーブルの上の御馳走に舌鼓を打ち、飲み、笑顔でうなずき言葉を交わす。そして、明日も朝からダカールへの道なき道を、車も人もほこりにまみれて走るのです。そんな誰が見ても納得できるような番組でした。


 そんなパリダカールラリーを真似して、日本の番組が作ったレースがありました。日本人が車やバイクでアジアのどこかの街を走るといったものでした。その日の終わりでは、眼鏡をかけた痩せた日本の若者が味噌汁と御飯を立ち食いしている映像でした。制作費の関係でしょうが、パリダカールラリーと比較することも出来ない内容の無いものでした。なんか、もっと、肉じゃがとか秋刀魚定食とか、もっとこう、なんていうか。力の出るような、一日の終わりを迎えるにふさわしい食べ物を用意できなかったのかと思いました。質実剛健とか、寝れば一畳立てば半畳じゃないか。とか。違うんだよねえ。何か。なんかみみちくてかっこわるんだよね。かっこわるいのはいいんだよね。かっこいい人もいるし悪い人もいるってことで。みみっちときもあるよ。そりゃ人なんだからね、でも、なんか、人として間違ってるっていうより、どっか違うような気がするんだよね。


 日本のバブル経済に於いて、日本の国民には幸せな顔を見ることはできませんでした。疲れた顔、顔ばかりでした。それは、日本に集まった世界のお金は絵に書いた餅、張りぼてみたいなものではなかったでしょうか。見せ掛けばかりの日本経済でした。


 『ほんとうにありがたいことです。他の震災者の方達の事を考えたら。もう。』


 背中を丸めた、東海沖大地震の震災者の一人の奥さんが、全国からの援助に対して、テレビ画面で弱弱しい笑顔を見せながら、言いました。素朴な感じの奥さんです。震災でなくなられた方や家族をなくした方の心境をおもえば。家も、仕事も、何もかも無くしてしまった人達のことを思えば。未だに行方不明の人達を思えば、なにが言えるでしょう。


 政府も大変な努力はしているのでしょう。しかし、まだまだ、一部の人達だけで、援助が届かない人達がいるようです。確かに部分部分は良いのですが、全体的とか、組織的となると何か足らないような気がするのです。システマッチックに考える事が出来ないような気がするのです。酒に飲まれる人、タバコに吸われてしまう人のような気がするのです。遊びに遊ばれて、仕事に使われてしまう人のような気がするのです。震災にあおられ自粛の中で明日に進めなくなってしまう人になってしまうような気がするのです。日本人としてはいいんだけど、人間としてはどうなんだ。人としては。そんな感じなのです。


 がんばれ、日本。世界中の国が応援してくれています。ひとつ前に進みましょう。疲れたら休みましょう。その先には、良い事がたくさん待っていますよ。そして、喜べる日が来ますよ。人が人である事を。やればいいんだからね。今出来ることを。



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