2011年7月24日日曜日

放射能汚染より怖い、ぶったくりをなんとも考えていない大家さん


 『お世話になりました。それじゃ、これ、家の鍵です。』
 『なれないうちに引越しちゃって。』



 私は、そう言いながら右手に持った家のドアの鍵を大家さんに渡そうとしました。しかし、大家さん、手を後ろに廻してしまって、受け取ろうとしません。なんとなく大家さんの気持ちが分かるような気がします。そんな急に引越されたら困る、との考えです。借り手を捜すのに時間がかかる、と。引越す意思を大家さんの家に行って伝えたのは、二週間ぐらい前です。そして、引越先と、引越トラックの手配が付き、実行する事になりました。そんな事で、晴れた秋の日の午前中に、大家さんの家の玄関前に来て、短い間ではありましたが、御礼の挨拶をしているのです。鍵の受け取りを渋る大家さんの顔の目の前に、借りている家の鍵が、私の右手に、しばらくぶら下っていました。そして、老いてはいますが、背が高く大きな体の大家さん、どうしょうもなく私の右手から、家の鍵を受け取りました。



 借りている家の部屋で玄関先を眺めながら、引越トラックが来るのを待っていました。引越を決断して、引っ越先の手配や準備を実行した、自分の姿を、妙に頼もしげに感じていました。荷作りは、前日に全て済んでいて、後は、引越しトラックに乗せて、引越し先に行くだけです。涼しく快適な気温で、青空と太陽の陽射しを感じさせる良い日でした。ここは、小さな平屋の戸建ての家で、狭いながらも家の周りには庭も着いています。風呂付、6畳2間台所付きです。見た目は、静かで、こじんまりとして、大変暮らしやすそうな良い感じがします。家の周囲には、庭木の囲いが取り巻いています。そんな小さな家の玄関先に腰を下ろして、引越しトラックが来るのを待っていると、息を切らして玄関先に来た若い男が居ます。



 黒いスーツを来て、白いワイシャツに黒い革靴を履いて、ネクタイを締めています。痩せて背が高く、額がちょっと、狭く、目の細い若い男です。ここの賃貸契約をしたときの不動産屋の男です。硬い黒髪のヘヤースタイルが、若さを象徴しています。



 『ハァ、ハァ。大家さんに言われて来たんです。ハァ、ハァ。あなたが引越しちゃうと云ってきたんです。ハァ、ハァ。なにやってんだぁ、って云われて。』



 ここは、横浜田園都市線の青葉台です。とても、たくさんの山や丘があり、緑が多く目にも、肺にも良い空気がある環境に思えて3ヶ月前に引越してきました。しかし、うかつでした。ほんとに、うかつでした。道の両側には、たくさんの緑があり、家々も適度な間隔を置いて建っています。しかし、急な勾配の坂が多いのです。そんな坂の近くに、何件かの貸家が建っていて、その一軒に入居したのです。結果は眠れません。平日祝日を問わずに、夜になると、帰宅する車がたくさん通ります。坂を上るためにエンジンギアを落としてアクセルを踏んで来るのです。エンジンギアが変わる音と、エンジンを吹かす音が仕切りなしに深夜、早朝まで続きます。休日の昼間に不動産屋に案内され、夜の状況など知る由も無かったのです。



 こんな住まいで眠れたのは1日だけでした。轟々と降る雨の日だけでした。雨の降る音に、車のエンジン音、ギアチェンジ音が掻き消されたのです。もう眠れないし、駄目だと思い、引越しを決意したのです。



 どうも、大家さん。引越後の一ヶ月分の家賃と違約金を支払って行けと不動産屋に云ったらしいのです。敷金、礼金は当然、返りません。それは、私自身も、返さないだろうなぁと、思っていました。



 どうなんです。こんな状況を知っていて、引越しを余儀なくされて、敷金、礼金はもとより、引越後の一ヶ月分の家賃を取ろうなんて云う根性をした家主って。



 ちなみに家主の家は、坂から随分離れた所に建っています。訪ねる度に、息子さんや、奥さんは、家の奥の方から姿を現します。陽の射さない、坂から遠い部屋の方からね。



 この話は日本経済がバブルが崩壊する前の時期の話です。



 多分。今でも、同じ事をやっているはずです。皆さん、本当に、気ぉ付けて下さい。


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