2011年7月10日日曜日

立ち尽くし、目から涙を流し、私を見送る年老いた女性


 『今までは、夫が運転して私は車に乗っているだけで、どこでも行っていたから・・・。』



 彼女の話方が、ちょっと気になってきました。笑いながら、彼女に聞きますが、要領を得るような話にはなりません。どうも、高齢の為なのか話に集中出来ないような感じです。しばらく、堂々巡りをしていましたが、彼女に住所が分かる持ち物を、持っているか尋ねました。すると、黒いバック入れから皮の財布を出して、何枚かのプラスチック製のカードを出して来ました。病院のカードを受け取り、名前と住所を見ました。



 『息子は江戸川で働いているから・・・。』



 どうも、息子さんが江戸川区で働いているらしいのです。二日毎に杉並区の彼女の家に来るらしいのです。北海道の息子さんも、今度、奥さんを連れて尋ねてくれるらしいのです。ですが、現在は1人で暮らしているらしいのです。旦那さんが、最近死んでしまったらしいのです。家には、ホコリも被っていない新しいタイプの新車のワゴンカーが門の中にありました。なかなか玄関のドアを開けることが出来ずにいました。ドアには3つぐらい鍵が付いていて、鍵を差し込んでは、ノブを廻すのですが、閉まったままです。



 彼女の家に、彼女をやっと連れてくることが出来ました。玄関の鍵も開き、暇乞いをしました。すると、彼女が家には入らずに立って私を見送ります。家に入って下さいと、言っても、玄関からの短い小道を歩いて私を見送ります。その目には涙が流れていて、左の手で拭っています。どうも、凄く寂しい生活をしているらしいのです。一人で生活している事が、大変辛いらしいのです。



 玄関を開けている最中でも、足元がふらつき、よろけていました。私に飲み物を、と言う彼女ですが・・・。ふらついて、玄関の門によろけ、しりもちをついて、後ろの車に後頭部をぶつけてしまいました。慌てる私に、彼女が言います。



 『足元がふらつくの。』



 そんな年老いた彼女の、私を見送る姿が、いつまでも、彼女の家の玄関先の道にありました。昨日の事でした。


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