2009年9月11日金曜日

理由なく付いてくる人




『なんだい?』


 歩いています。それも、急ぎ足で。まだ、春先の寒い朝の事です。灰色のアスファルトの歩道を靴の音を鳴らして、急ぎ足です。東京は世田谷区にある千歳船橋の駅に向かって急いでいるのです。新横浜にある仕事場に行くためです。ですが、別段時間に遅れているわけではありません。急いで歩く事が、ちょっとした運動になる事に気が付いたのです。大きくまたをひろげて、両手の振りもおおきくなります。


 ふっと気が付くと、ぴったり私の後ろに付いてくる人がいます。ちょっと想像できません。それぐらいの急ぎ足で歩いているのです。変な人です。付いてくる人と私との間隔は2メートルもないでしょう。それぐらい、ぴたりと付いてきます。何か変です。私はそうおもうのですが、後ろの人は何を考えているのでしょう。通勤の人達を次々にやり過ごしています。なんか変です。私と後ろの人は。多分、我を忘れているんだと、思います。私が急ぎ足で歩いているので、何かあるのかと思っているのです。それで、ピタリと付いて歩いているのです。私に言わせると、アホかぁ、そんな感じです。


 改札を抜け新宿方向へのホームに立っています。何事もなく落ち着いた感じで電車を待っています。ピタリと私についてきた人ですか。私を見ています。あれっといった表情です。その目は節穴のような目でした。何か良からぬことを考えていたのでしょう。


 注意しましょう。普通に見える人でも、悪さをするものです。随分昔の話ですが、メキシコオリンピックの銀メダリストであるマラソンの君原健治選手が、雑誌に投稿して、書いたちょっとした自伝の文章の中にこんなのがあります。


 『凡人に暇を与えると、悪をなす。』


 私の歩行にピタリと付いてきた人は、凡人なのです。そして、秘かに私に悪をなそうとして付いてきたのです。ですが、私には、その隙がなく、それが出来なかったのです。そして、彼はその気はなかったのですが、急いで歩いている私を、そう見てしまったのです。悪をなす出来心というやつで見てしまったのです。当然私には、悪をなされる隙はありませんよ。だって、私は、ただ急いで歩きたかっただけなのですから。多分、彼は動物的な弱者を獲物にする本能に従ったのだと思います。大人しい飼い犬が、怖がる人に噛み付く事があります。こんな事を聞いたことがあります。



 『他人の失敗は蜜の味。』



 そして、人はみんなそうだと思います。あなたにも、経験があると思います。多分、こんな事を誰かに言われた事はないですか。そして気が付いたり、我に戻ったことはないですか。


『何を考えてんの?』


 そして、急いで歩く事は止める事にしました。まねをする、多くの人が出現しはじめたからです。

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