2009年4月5日日曜日

人の目




 目と目が合いました。

 ここは世田谷の砧にある屋内プールです。私はプールの中でビート板を両手にもって騒がしくバタ足をして白い水飛沫を上げています。彼女はプールのそばにある突起椅子に腰を下ろして座っています。その目は私を笑っている目です。ふっくらと太めの女性です。黒い水着をきています。彼女の目が言っています。天気の良い真夏のある日の事です。

『あはは、泳げないんだ。ははは。』

 彼女は私から目を離そうとしません。本当に『目は、もの言う。』、と言います。そのとおりです。私を笑い者にして、笑って自分を慰めたいらしいのです。本当に嬉しそう顔をして喜んでいます。久しぶりです、こんな嬉しそうに無邪気に笑っている顔を見るのは。良かったね~。

 十分にバタ足の練習をした後に、平泳ぎをしました。次に背泳ぎをし、クロール、バタフライと続けてプールを往復して泳ぎました。彼女の姿は、見えません。そうです、私も人に笑われながら4種目を泳げるようになるように練習したのです。平泳ぎ、クロールはなんとなく小さい頃から泳げました。背泳ぎ、バタフライが出来ませんでした。なんとなく練習しはじめました。背泳ぎです。プールの椅子に座りながら、明らかに私を笑っている顔があります。子供達、女性達です。声を出して笑う人もいます。でも、かまわずに練習しました。2週間ぐらいでなんとか格好が付きました。背泳ぎが出来るようになったのです。笑っていた人は、もういません。次にバタフライを練習しました。やはり、笑う人が出てきます。声を上げあきらかに、笑っています。『変なバタフライ。』 と、言った声が聞こえてきます。みんな笑っています。でも、段々形になってきました。すると、突然、今まで笑っていた人達の中にひとり太った人がいたのですが、私と同じようにバタフライを練習し始めた人がいます。彼もバタフライが出来なかったのです。そして、私と彼はバタフライを泳げるようになりました。

 多くの人が目標を持って行動する人を笑います。そして、それがほとんどの人ではないでしょうか。目標を持つ人と、持たない人。私の小さい頃の家庭もそうでした。母の話は人を笑うような話ばかりです。それを聞いて笑っている父と兄弟と私。むなしい笑いではないでしょうか。もちろん、冗談で悪気で笑っているのでは無いのですが。




準備万端で引越したいですね。

0 件のコメント: