『しょうちゃん来たぞ。』
私と姉は、庭に出て、あっという間に真っ赤に燃えた炭を入れた七輪に金網を乗せました。しかし不思議ですが、自分が何をしているのか、頭の中では分かっていません。からだの何かが、意識とは関係なく体を動かしていました。
庭に置いてある大きな木の樽に特大の黒いしおり貝とごつごつした白い岩牡蠣が山盛り入っています。夏の夜に潮が引いて顔をだした岩から、しおり貝や岩牡蠣を、樽に詰めてきてくれたのです。
しおり貝は、焼けてお湯を吹き、ゆっくり開きます。鮮やかなオレンジ色の大きな身が、顔をだします。割り箸で貝を押さえ、茶色の何本もの繊維質の根っこを持って身を、はがして口にいれます。潮の香りと、ふくよかな触感が口の中に広がります。なんともいえない味と気持ちです。
『う~ん。うまい!』、『うめえぇ!』
姉と私は顔を見合って笑っています。心の底が喜びでいっぱいです。夏の真っ赤な太陽の下で、七輪の中で燃え盛る炭の熱など関係ないです。どれぐらいの時間食べ続けたでしょう。お腹いっぱいになって玄関のドアをあけ、ゆっくりした動作で家の中に入ろうとサンダルを脱ぎ足を上げると、寝坊介の弟がしまった、と言った感じで庭に飛び出して行きます。
『満たされた、幸せな状態です。』
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