2009年10月4日日曜日

昔住んだ奇妙な場所





 『以前、そこに住んだんだけどさぁ。なんか、おかしなところがあってさぁ。』 



 私は、仕事先の年下の同僚に話始めました。



 『そこ、俺んちの地元なんですよ。』



 話好きの彼は笑顔で、私の話を聞き始めました。そして、いつも口を動かす事を止めたことがない彼が無口になっているのが不思議でした。彼は熱心に私の話に耳を傾けています。彼の目は、何か確信めいた動じない目になっています。



 『どうなのぉ。あそこ、おかしくないの?』



 私は物言わぬ彼に問いかけました。何にも言いません。静かに席から立ち上がりました。



 『ねぇ。どうなの?』



 私は、黙って立ち去ろうとする彼に問い続けました。何も言わずに彼は立ち去りました。 この話題には触れたくないようなのです。そんな場所に私は2年間住み続けました。 そして、2年間、睡眠薬を飲んだ1週間以外は眠れませんでした。それと不思議なのですが、睡眠薬以外にも1日か2日眠れた日が有りました。何故昨日の夜は眠れたんだろうと、翌朝散歩をしていたら、小道の脇に、紫色のなすと緑色のきゅうりに白い割り箸を刺して作った動物の置物がありました。そして、黒い藁の燃やしかすがそばにはありました。そうなのです。お盆の日に眠れているのです。



 『ああぁ! この顔。』



  ここに、引越してきてから、もう2週間眠れない日が続いていました。そんな眠れない夜に、起き出して電気のついてない薄暗いリビングの柱にぶら下げている鏡を覗き込みました。何故眠れないんだろうと。鏡の中には、暗いリビングを背景にして私の顔が映っていました。その目はびっくりするぐらい、かっと見開いていました。それは、まるで猫の目のようでした。そしてあることにハッと、気づきました。この顔は隣のおくさんの顔と一緒です。 顔がふらふらしています。



 『隣に引越してきた、山田です。宜しくお願いします。』



 引越しをすませて、名前の入った熨斗紙を巻いたタオルを、頭を下げて隣近所に配りました。そのとき、家の右隣の家の奥さんの玄関先で、世間話を少しだけしました。なんか、この奥さんの顔がふらふらしてます。なんだろとおもいました。



 『眠れないんだよねぇ。』



 私が、近所にあるスポーツクラブのスカッシュコートの前で、たむろしている仲間に独り言のように言いました。すると、スポーツクラブの女性インストラクターが急にあわてて、話題を変えようとしました。それが、とても不自然なあわてようなのです。何日か前に、私が眠れないことを彼女に話たことがあったのです。そのときの彼女は、とれも不思議がって、同情してくれたのですが。
 


 運動すれば眠れるだろうと、このスポーツクラブには入会したのです。



 『そこに船の船外機を置くからね。駐車場はべつだからねぇ。代金は。』



 なんか不動産屋から、分けの分からない電話が掛かってきました。そんな電話が2回ほどかかってきました。今思えば、どうも私の様子をうかがっているような電話でした。問題なく私がこの賃貸の一戸建ての住まいに、住んでいるかどうかを確かめていたようです。ここは木立ちがたくさんあり緑豊かで、閑静な住宅地です。見た目はですね。本当に見た目は、とても良いところです。



 『そこは、そうゆうところなんだぁ。不動産屋と相談してくれぇ。うちも引っかかちゃてるんだぁ。』



 電話の受話器の向こうから、年老いた大家の間延びをした声が聞こえてきました。本当にびっくりしました。いままで何故眠れないのか不安だったのです。体が悪くなってしまったのかと、いくつもの病院をたずねました。どの病院でも、どこも悪くないといいます。大きな大学病院にも診察をお願いしましたけど、問題ないといいました。そんな事で大家に、電話をしたのです。住んでいる、ここが問題のないところなのかどうかを、尋ねようとしてです。



 眠れない体と頭の状態で、少し調べてみました。そんなことで、昔この地域と他の地域の住民が決起していることが分かりました。



 『でも、あなたの住んでいる住所は該当する区の住所ではないでしょう。問題のある地域はこちらの区ですよ。』



 区役所の2人の男性が、私に説明してくれます。私は、理由を知りたくて区役所に出向いたのです。どれぐらい話をしたでしょう。何かを隠したいようなのです。協力的に対応はしているのですが、ちょっとある部分に触れたくないようなのです。区の責任への訴訟でも恐れているのでしょうか。次の日の朝、何気なく車が一台通れるかどうかの道を挟んだお隣さんの古い表札を眺めていました。すると該当する地域の区の住所だったのです。真相は、何年か前に区の地域を整理していたのです。



 現在、その地域にはたくさんのマンションが建設されています。そして、何事もないかのように、多くの人達が生活しています。



 確かに触れたくないことは誰にもあると思います。しかし、改善しなければ未来に暗い影を落とすことになるのも事実です。 それとも、これが世の中の常なのだと思いますか?



 現在は事故に遭遇した心境にいます。苦しかった日を思い出すことが、少なくなりました。ほとんど思い出さないと、言ったほうがいいでしょう。生活に追われていて思い出す暇がないのが、本当のところです。健康も、仕事も、貯金も、仕事先も、家財道具一切、持っている物は、全て失いました。 人生の航路を大きくバラバラにされ、狂わされました。



 結局なんだったのかって? ある交通機関が昔から発生させている解決されない、ひとつの目にみえない公害でした。存在はしていますが、それを解明するには多くの時間と抵抗を覚悟しなければなりません。それは、地域住民の闇から闇に葬られた、本当に圧倒的な現実の姿です。 そして、いまだに信じられないのです。そんなところがあり、そんなところに住んで、すべてを失ってしまったことが。



 しかし、やがては真に力と勇気を持ったリーダーが現れ闇から引きずり出して解決するでしょう。世界が時の流れの中で変わるように。

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