2009年6月25日木曜日

日本に海が無い?




 『・・・知らなかったんだ。日本に海があるの。・・・。』


 きょくたんに手の指の短い彼が何気なく、言いました。


 『ええ。なんでよお!日本は海に囲まれてんじゃん。』


 何を言ってるんだろ、この人は。そう思いながらも頭の中で不思議な興味が湧いてきています。何を言っているのかハッキリ突き止めたい気持ちです。


 『・・・。でも、知らなかったんだ。高校の修学旅行で初めて海を見るまで。』


 彼が子供のような素直さで、言います。


 『でもさあ。地図見れば分かるじゃない。社会の勉強で見なかった。日本が海に囲まれているのを。』


 私はおかしな不思議さでいっぱいです。でも、分かるような気がします。確かに似たような経験があります。ここは、ある電気メーカの工場です。色々な人達がネズミ色の作業服と帽子を被って作業をしています。彼もハンダゴテを持って、回路の基板に端子を接続しています。たまたま生まれ故郷の話になったのです。私は、小さな港町の生まれです。その、港町から海の話になったのです。そんな感じでお互いの故郷を話し合い、親交を深めたのです。


 そういえば、昔アメリカの歴代の大統領ルーズベルトの奥さんが鉄道建設現場の、道端で休んでいる大勢の苦力(クーリー)を見て、考えたそうです。一体彼らは何を考えているのだろうと。彼女には、彼らの生活が想像出来なかったのだろうと思います。陽に晒され、少ない賃金で額に汗を流し道端で粗末な昼食を食べて、働く苦力(クーリー)。


 『知らなかったんだ。快適な生活と言う物を。広々とした間取りの家が建てられる事を。夏の暑い日には裏庭のプールで家族がのんびり休みの時間を過ごす事が出来るのを。見たことなかったんだ。人生は生きる事だけじゃなく、生活を楽しみ、仕事に意義を見つけることを。自分を取り巻く世界や環境を変える力があることを。表面の上っ面だけじゃなく心底ね。』


 こんな想像をし、子供の素直さで言える日がいつか日本人にもくるのでしょうか。私の部屋の窓から、40坪も無い古い2階建ての一軒家が壊され、その後に3階建ての一戸建てが3件、立ちました。すぐに買い手が決まり、住人が引っ越してきて現在住んでいます。






『いくら小さくても我が家だよね。よかったね。よかったよかった。裏庭もプールも無いけど、いいじゃない。幸せに暮らせるよ。家族仲良く。海外の人達からは、ウサギ小屋に住む日本人と言われようが、なんでもないじゃないか。ここは日本だよ。』